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多嚢胞性卵巣症候群について

さあ、妊活を考えよう、と思い婦人科を受診したものの
「超音波検査を見たお医者さんに多嚢胞性卵巣症候群と言われた!!」
という経験がある方は、意外と少なくありません。
今まで、健康上に何の不自由も感じていなかったのに、突然聞きなれない病名を告げられて戸惑う方も多いのではないでしょうか。
今回は、婦人科で働くとよく出会う、でも皆様にはあまりなじみのない多嚢胞性卵巣症候群(以下、PCOS: polycystic ovary syndrome)を、わかりやすく説明していきます。

PCOSとは?

PCOSのある方が婦人科に受診する最も多い症状は、月経異常です。
月経異常といっても月経が全くない場合もあれば、不規則には来るという場合もあります。不規則といっても半年や1年に1回程度から、月経が1か月に1回来ないなどその症状は人より様々です。また、月経が不規則であるが故、排卵日が特定しにくい、またはうまく排卵をしていないために不妊を主訴にされる方も多く、女性の5〜10%に見られる一般的な疾患です。
月経が来ないことは不妊以外にも問題になり、月経がくることで毎月周期的に子宮内膜を剥がしています。しかしながら、月経が来ないと子宮内膜が増殖し続けることとなり、その影響で若年でも子宮体癌になってしまう方が一定数いることは見逃せない事実です。
したがって月経が来ないから楽、だけでは済まされないのがこのPCOSの非常に大事な側面です。

PCOSの診断とは?

PCOSが疑われる場合は超音波検査や血液検査を行い、より詳しく調べていきます。
PCOSの診断基準は
① 月経異常
② ネックレスサインと言われる卵巣所見
(多数の卵胞が連なっている様子:下図)

不妊治療ガイダンス第3版より

③ 血液検査
・LH(排卵の指令を出すホルモン)>FSH(卵を育てる指令を出すホルモン)
または
・男性ホルモンが高値

この3つ全てを満たす場合です。3つ全てを満たさない場合でも、その該当項目がある場合はその傾向があるとして対処する場合もあります。

PCOSの方からのよくある相談

「多嚢胞性卵巣症候群ですね」と告げられ、ご自身でPCOSについて調べると、
①肥満
②体毛の濃さ
などの特徴が出てきます。
しかしPCOSの原因はまだ解明されていないことが多く、PCOSと診断されたからといって必ずしも上記のような症状が出るとは限りません。クリニックで働いていると時々
「私は太っているということですか?痩せたら治るの?」
「毛深いって思ったことないんですけど…」
と患者様に尋ねられることがあります。
確かに、PCOSの症状の一つに「男性ホルモンの高値」とあるので、それに付随してそういった症状が出る方がいるのは確かですが、日本では正欧米ほど男性ホルモンが圧倒的に高くなる場合は少なく、むしろ痩せ型の方が多いです。正常なBMIなのに、「痩せなきゃだ!」と無理なダイエットをされるほうが、より妊娠しづらい体になってしまいます。適正なBMIであることも妊活には重要なファクターとなります。

PCOSの方が妊活で困ること

さて、月経異常を生じるPCOS。妊活においてはどんなことが問題になり得るのでしょうか。
PCOSで大きく問題となるのは排卵障害です。
ネックレスサインといわれるように、卵巣にたくさん卵があるのは悪くないように聞こえますが、多数の卵胞が小さいまま育たないことで無排卵に繋がります。


通常月経は周期的に25~38日での周期が正常とされていて、その範囲であれば排卵日をおおよそ特定することは可能です。
しかし、毎月周期が大きく変わってしまう、あるいは半年に1回しか月経が来ないとなると、ご自身での排卵予測はとても難しいです。
また、PCOSの患者様には「無排卵周期症」といって、ある程度周期的に月経様出血があるものの、実は卵胞の発育はなく排卵していないで出血だけが周期的に起こっている場合があります。月経が来ているようにみえるのですが、排卵していないので妊娠には至りません。
このように、自然排卵が難しいあるいは周期が特定しにくいということは自然妊娠も難しくなります。

PCOSの方の一般的な妊活ステップ

では自然排卵が難しいPCOSの方の妊活はどのようなステップによるのでしょうか。
正直、これは年齢やPCOSの重要度によってもかなり個人差があるので一概には言えないことを前述させてください。そのなかでも一般的な方法について記載します。

①卵胞を発育させるための薬剤を使用し、卵胞発育をさせ排卵を目指す
具体的にはクロミフェンやレトロゾールなど、卵胞発育を促し排卵の確率を高めるホルモン剤を使用します。クロミフェンはレトロゾールに比べて発育卵胞数が多くなってしまい、卵巣過剰刺激症候群(OHSS: Ovarian hyperstimulation syndrome)を引き起こすこともあるため、PCOSの程度によっては最初からレトロゾールが選択される場合もあります。内服薬で1~2個の卵胞発育が認められる場合には、hCGを投与し排卵を促します。タイミングや人工授精で妊娠を目指します。

②低用量のFSH注射による卵胞発育を目指す
内服薬での卵胞発育が思わしくない場合には、FSH低用量漸増法という、注射をごく少量毎日打つことにより卵胞発育を目指す方法もあります。PCOSの中等度の方でしたらこちらで卵胞発育が目指せることが多いです。
この方法は、毎日少量の注射を打つことで、たくさん見えている胞状卵胞のうち、1個の卵胞発育を目指しますが、卵胞発育に反応するFSH注射の量はとても個人差があり、じわじわと増量して言うことからこの名前がついております。
うまくいくと単一あるいは2個程度の卵胞発育があるのですが、PCOSの患者様の中には注射で多くの卵胞が発育してしまうことがあります。
こうなると
1)タイミングや人工授精は難しい(多胎妊娠の危険があるため)
2)OHSSのリスクがある
ということで体外受精に切り替えざるを得なくなる場合もあります。

③体外受精
②の方法で単一卵胞の発育が難しい場合などは体外受精に進むことが好ましい場合があります。
この場合はOHSSに十分気を付けながらFSH製剤を投与しながら複数個の卵胞発育を目指します。
PCOSの方は採卵してたくさんの卵子が得られる一方、受精率や胚盤胞到達率が低い場合もあると言われています。

PCOSの方は、一般より多くの卵が卵巣に貯蓄されている分、うまく刺激すれば多くの卵子獲得が期待できます。
ただ先述した通りPCOSの場合はその調節が難しいため、刺激には経験ある医師の正確な治療計画と判断が必要になります。

PCOSの方の妊活は一筋縄ではいかないのが正直なところです。
しかし、PCOSの妊活を得意とする医師に妊活を伴走してもらうことで、その道筋が見え、きちんと秩序立てた治療をすることが出来ます。しっかりと医師と話しをし、適切な治療を受けられる医師のもとで治療してほしいと願います。
当院では、経験豊富な藤原医師の指導のもと、様々な卵巣刺激を行っており、PCOSの方の重症度に合わせて最適な治療を提供し、実際に妊娠し卒業されている方がたくさんいらっしゃいます。
PCOSに悩み、妊活を始める方、体外受精へのステップアップを検討されている方はぜひ一度ご相談にいらして頂ければと思います。

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