胎児にも感染する“梅毒”
ニュースで「梅毒感染者が増加している」と聞くことありますよね。
梅毒ってどんな病気がご存じでしょうか。
今回はフェニックス アート クリニック小池洋先生に梅毒について教えていただきました!
梅毒とはどんな病気なのでしょうか
梅毒はTreponema pallidum(梅毒トレポネーマ)という細菌が原因の感染症で、あらゆる臓器に急性、慢性の炎症を引き起こすことで多彩な症状が出現します。性感染症のひとつであり、性的接触を介して感染することが一般的です。感染初期の症状は発疹や潰瘍がみられることが多く、そのまま放置して病状が進行すると神経、心臓や血管に異常をきたすようになります。また、妊娠中に母体から胎児へ感染することもあり、流産や胎児発育不全、胎児の先天梅毒を発症することがあります。これは妊娠を目指す方にとっては特に気を付けるべきポイントになります。
ここ数年で梅毒感染者は増えてきています。梅毒患者数は1948年には22万人いましたが、治療薬の普及に伴い患者数は減少してきて、1999年以降はずっと1000人未満になっていました。しかし2011年以降の患者数は増加に転じて、2022年には13226人に達しています。
梅毒では多くの症状がみられます
早期梅毒第1期
感染して1ヶ月前後の梅毒です。梅毒トレポネーマが体内に侵入してから潜伏期間の後に、感染部位の皮膚や粘膜に硬結や潰瘍といった病変が出現します。これは皮膚がただれているのに痛みを伴わないことが特徴です。さらに鼠径部のリンパ節が腫れてくることも多いです。
早期梅毒第2期
感染3ヶ月前後の梅毒です。感染部位から梅毒が全身に広がり、四肢や体幹に発疹が出現します。手や体の赤い発疹から、外陰部の平らなイボのようなものまで多様な皮疹が出てきます。
第3期梅毒
感染後1年以上経過した後期の梅毒です。この時期には大型の皮疹がみられます。皮膚病変以外には、神経、心臓、血管にも病変が出てきます。現在はここまで進行することは稀です。
妊娠中の梅毒は胎児にも感染する
子宮内で梅毒トレポネーマが胎児に感染することで先天梅毒が引き起こされます。患者数は2013年まで年間4人程度でしたが、それ以降は増加してきて、2022年は20人におよびます。先天梅毒は、流産、胎児発育不全、子宮内胎児死亡、胎児奇形といったことの原因になることがあります。早期の治療開始が母子感染予防になるので、妊娠前や妊娠早期に診断、治療を行うことが大切です。
診断する方法
梅毒は症状の経過や血液検査で診断します。血液検査では、梅毒血清反応検査(RPR)と、梅毒トレポネーマ抗体検査(TP抗体)という2種類の検査を行います。これらの結果の組み合わせにより、梅毒感染の有無や活動性の程度を判定することができます。また、自覚症状がなくても血液検査で陽性になる潜伏梅毒ということもあります。妊娠中に診断される梅毒の9割はこの潜伏梅毒であるため、血液検査でスクリーニングを行うようにしています。
梅毒の治療
梅毒は抗菌薬の内服や注射により治療します。病期や使用する薬剤によりますが、1ヶ月程度の治療期間になります。治療効果判定は、診断で用いた血液検査の値が低下するかどうかで判断していきます。
安心して不妊治療、妊娠に臨むために
このように梅毒はここ最近増加傾向にあり、潜伏感染という自覚症状のない感染者も多く、胎児へ感染して母子ともに危険にさらされるリスクがあります。また、プレコンセプションケアといって妊娠を考える前に健康管理を行うことで、妊娠の可能性を増やし、妊娠中や出産後も家族がより健康な生活を送れることを目指すことがWHO(世界保健機関)から提唱されています。その中で性感染症の予防や治療についても取り上げられており、正しい知識をつけて早期発見、早期治療が望ましいとされています。そのため当クリニックでは不妊治療開始時に梅毒のスクリーニング検査を行うようにして、安心して不妊治療、妊娠に臨めるようにしています。