胚移植時に子宮内膜が薄いと妊娠率にどの程度影響ある?
胚移植の際に、子宮内膜が薄いからキャンセルにしましょうと言われたことがある患者さんは一定数いらっしゃると思います。
体外受精を経て保存できた胚を戻す際に、着床するベッドとなる子宮内膜の状態が重要なことは想像がつくと思います。
では移植の日程を決める際に、内膜が何mm以上だと十分なのでしょうか?同じ内膜の厚さでもあるクリニックでは内膜の厚さが十分なので胚移植をしましょうと言われ、異なるクリニックでは内膜の厚さが不十分なのでキャンセルにしましょうと言われることがあるかもしれません。
医療には明解な共通認識、データとして示されているものもあれば、依然曖昧な部分もあります。例えば内膜が8.0mmと7.9mmでどれくらいの差があるのか?そもそも測定者によって異なる誤差の程度なのではないか?など難しい部分があります。
そんな子宮内膜の厚さ・薄さと胚移植への影響に関する論文を紹介いたします。
〈論文〉K E Liu et al
The impact of a thin endometrial lining on fresh and frozen-thaw IVF outcomes: an analysis of over 40 000 embryo transfers
Hum Reprod. 2018 Oct 1;33(10):1883-1888.
doi: 10.1093/humrep/dey281
背 景
子宮内膜が薄いとされるのは、内膜が(新鮮胚移植周期は排卵誘発日の内膜、凍結融解胚移植周期はプロゲステロン開始前の内膜)一般的に7mmまたは8mm未満で薄いと定義されるが、研究によってその定義は異なる。
新鮮周期ではいくつかの研究で子宮内膜が薄いと妊娠率や生児出生率が低下することが示されている。最近のレビューでは新鮮胚移植周期では子宮内膜が7mm未満で臨床妊娠率は有意に低下し、生児出生率には有意差はなかったという報告もある。
凍結胚移植周期では、子宮内膜の薄さが与える影響を評価した研究は少なく、8mm以上と比較すると7-8mmでは妊娠率が低いと考えられていた。
目 的
カナダARTレジストリ(CARTR-BORN)を用いて、子宮内膜の厚さが8mm以下で1mm減少するごとに新鮮胚移植周期、凍結胚移植周期に与える影響を評価すること。
試験モデル
レトロスペクティブコホート
対 象
2013年- 2015年 カナダARTレジストリ(CARTR-BORN) 33カ所のARTクリニック
新鮮胚移植周期 24363周期、凍結融解胚移植周期 20114周期 (登録ミスにより各々2449周期、1172周期が除外された)。
子宮内膜の厚さ:
①新鮮胚移植周期はトリガー日の内膜
②凍結融解胚移植周期はプロゲステロン開始前またはLHサージ前の子宮内膜
臨床的妊娠は超音波で胎嚢が存在することとした。
評価項目
臨床的妊娠率、流産率、生児出生率
結 果
≪新鮮胚移植周期≫
・臨床的妊娠率、生児出生率ともに子宮内膜が8mm未満で有意に減少し、流産率は上昇した。
・5・6日目の胚盤胞移植のみに絞ったサブグループ解析でも同様の結果であった。
≪凍結融解胚移植≫
・子宮内膜≧8mmの患者と7~8mmの患者の間には差がなかった。
・7mmm未満において臨床妊娠率、生児出生率が有意に低下した。
・5・6日目の胚盤胞移植に絞ったサブグループ解析でも同様の結果であった。
結 論
新鮮胚移植周期は子宮内膜が8mm未満で臨床的妊娠率、生児出生率ともに有意に減少し、流産率は上昇した。
凍結融解胚移植は子宮内膜が7mmm未満において有意に臨床妊娠率、生児出生率が有意に低下した。
しかし、子宮内膜の厚さが4-6mmの患者においても妊娠率はある程度保たれた。
論文内 discussion
・著者らの知る限りで、子宮内膜の薄さが胚移植の成績に及ぼす影響を評価した最大の研究である。
・長所は規模が大きく、先行研究では内膜の厚さが6mm未満の胚移植はキャンセルされ、ほとんどなかったが、本研究では6mm未満の胚移植を受けた患者は253人もいた。それでも胚移植の96%は内膜が7mm以上を占めていた。
・周期中の患者の特徴に関する詳細な情報はなく、子宮内膜が薄いということは反応不良者の割合が高いか、その他の因子によって妊娠予後が悪い患者を反映している可能性がある。
(個人的コメント)
・子宮内膜は7mm、8mm程度はある方が望ましいことは周知されているため、今回の論文でも子宮内膜7mm以上の患者さんが大部分を占めていますが、内膜が6mm未満、5mm未満で胚移植を行われている患者さんもある程度の数が含まれている印象です。
・6mm未満になると妊娠率が0%になることはもちろんなく、ただし時間をかけて保存できた胚を移植するにあたって、一定基準以上を満たした内膜で戻したいのが正直なところだと思います。その線引きをどこにするかは患者さんによっても多少変わることもありますし、クリニックごと、医師ごとの線引きがあるのが現状だと思います。
・当クリニックでは凍結融解胚移植も新鮮胚移植も基本的には移植を決める日の内膜が8mm以上であることを目標としていることが多いです。
(論文における結論なので、他の論文では異なる知見が示されることがあることや、個々の患者さんによって状況は異なることはご了承ください)
(表は全て論文より和訳改変しています)
フェニックス アート クリニック医師
金田 悠太郎