お役立ちコラム

COLUMN

トキソプラズマとは

トキソプラズマ感染症とは

トキソプラズマは細胞内寄生性の原虫であり、感染するとリンパ節腫脹や発熱がみられることがありますが、無症状で気付かないことも多くあります。日本人の妊娠可能年齢の女性では6%程度がトキソプラズマに対する抗体をもっているのみで大多数は抗体をもっていません。トキソプラズマは妊娠中に初感染すると母親から胎児に先天感染をおこす病原体であり、妊娠前から先天感染に関することを知っておくことが大切です。

先天性トキソプラズマ感染症とは

妊娠中にトキソプラズマに初感染すると子宮内の胎児に移行して感染することがあります。これが先天性トキソプラズマ感染症で、水頭症、脳内石灰化、網膜炎、胎児発育不全、精神運動障害などの症状をおこします。妊娠初期では胎児への感染率は低いですが感染すると症状は重度であり、妊娠末期では胎児感染率は高いものの症状は軽度です。

感染源、感染経路について

トキソプラズマはネコを終宿主、他哺乳類や鳥類を中間宿主にしています。そのためネコのフンや土の中にいるので、ネコの世話やガーデニングなどの後に手洗いが不充分だと感染することがあります。また、生肉や加熱不充分な肉の中にも含まれていることがあるので、それらを食べることで感染することがあります。

診断・治療・予防について

 診 断 
妊娠中のトキソプラズマ感染が疑わしい場合は、抗体を詳しく調べることで妊婦感染の有無を調べることができます。トキソプラズマ初感染が疑われた場合や、胎児超音波検査で上記のような症状がみられた場合には胎児が感染しているかどうかを検査します。確定診断は、羊水PCR検査、新生児の血液・尿・髄液のPCR検査、抗体検査で行います。

 治 療 
妊娠中のトキソプラズマ初感染が疑われる場合には速やかに内服薬を使用し、トキソプラズマの胎児への移行を予防します。これは母体の感染から比較的短期間のうちにトキソプラズマが胎児に移行して胎内感染がおこるためです。また、羊水PCR検査などで胎児のトキソプラズマ感染が確認された場合には胎児治療を行います。より早期から治療開始することで重症の神経学的および眼科的合併症の発症率を下げることができます。

 予 防 
たとえ早期診断、早期治療ができたとしても感染児に重い障害が残ることもありますので、先天感染の予防が大切になってきます。妊娠中の感染原因や予防法としては、感染源の項にもあるように、ネコの世話をしたり土いじりをした後はよく手洗いをする、加熱不充分な肉は食べないようにする、といったことで感染リスクを下げるように心がけることが大切です。

このようにトキソプラズマ感染症は妊娠中に感染すると胎児に先天感染をおこし、視力障害、知的障害等の障害を残すことにつながります。妊娠期間の早い時期であるほど重症化しやすいことから、妊娠前から妊娠初期の母体感染をいかに防ぐかが重要なポイントになってきます。日常的に遭遇する可能性のあるトキソプラズマ感染のリスクについて知ることが、安全で安心な不妊治療、妊娠に臨む際に大切なことです。

(トーチの会、先天性トキソプラズマ&サイトメガロウイルス感染症患者会より)

フェニックス アート クリニック 医師
小池 洋