子宮腺筋症がある場合の妊娠率と流産率と不妊の関係
フェニックス アート クリニック院長の藤原敏博です。
最近不妊に関係する学会などで特に注目を集めている子宮腺筋症について本日はお話ししたいと思います。
本日は子宮腺筋症がある場合の妊娠率や流産率、そして分娩はどうなるのか、腺筋症と不妊の関係について話したいと思います。
INDEX
子宮腺筋症とは
子宮腺筋症とは、生理の時に剥がれる子宮内膜に似た組織が子宮の筋層内に入り込んで発生してしまう病態です。
そのため、生理の時期になると筋層内の内膜様組織も同調して出血し、さらに出血による肥大化がおこり、徐々に子宮自体が大きくなります。子宮が大きくなったことにより、月経量も多くなり、重い生理痛や月経過多といった子宮筋腫と非常に似た症状を起こします。また、子宮腺筋症と子宮筋腫は30~40%の人に合併することが知られ、そのことから女性のQOL(生活の質)を著しく低下させるといわれています。
子宮腺筋症は、昔は30代後半~40代の経産婦に多いとされていましたが、最近では20、30代の方にも多くみられお産を経験していない方でも起こりうるものになっています。
子宮腺筋症と不妊
近年、体外受精をされる方の平均年齢が上がったことにより、子宮腺筋症の好発する年齢層と重なり、腺筋症を指摘されたまま体外受精をする方も多く見受けられるようになりました。
それに伴い様々な質問を皆様から受けるよう機会も多くなりました。
子宮腺筋症と不妊については、あまり調べても出てこないことも多いかと思いますので、今回は子宮腺筋症と不妊について少しまとめたいと思います。
体外受精を行った患者のうち、子宮腺筋症が妊娠率・流産率にどのように影響するかを調べたメタ解析(Vercellini P, et al. Hum Reprod. 29, 964, 2014)によると、下表のような結果が出ました。このことから子宮腺筋症は当然のように妊娠率にも差が出ますが、なんと妊娠した後も流産率に大きな差が出ることがわかっています。よって、子宮腺筋症を合併している場合、持っていない方と同じではなく妊娠する前からの腺筋症の治療が必要となり、通常の流れの体外受精では管理が困難であるといわれています。
妊娠率 | 流産率 | |
腺筋症(+) | 40.5% | 31.9% |
腺筋症(-) | 49.8% | 14.1% |
子宮腺筋症による不妊の原因
★子宮腺筋症が不妊に与える影響★
・子宮の蠕動運動の増加(着床障害)
・精子の遡上運動を阻害
・感染に対する抵抗性の低下(子宮内検査、採卵、胚移植時)
・着床不全など
前述した流産率が高いことも腺筋症のコントロールが必要な大きな理由ですが、さらに、妊娠する際にも子宮腺筋症は強固な着床不全の原因になることや採卵、胚移植における際に感染を起こしやすいなどの側面を持ちます。
この2点が特に子宮腺筋症が一般的な体外受精の管理では不十分である大きな原因になるといえます。
当院では子宮腺筋症に罹患をされている場合、病変の状態によっては感染予防のために処置の前に抗生剤の内服をしていただくのはもちろん、場合によっては胚移植前のGnRH注射療法(2-3か月かかりますが、子宮内環境の改善には不可欠です)、腫瘍マーカーも併用した上での胚移植の時期を検討するなど、専門的な管理を行っています。
また、患者様の状況によっては当院にて子宮鏡検査(子宮内膜の状況把握)や、本院(フェニックス メディカル クリニック)でのMRI撮影(病巣の状況変化や子宮の蠕動運動数の確認)を適宜行いながら、体外受精を行うこともあります。
このように同じ良性疾患の子宮筋腫などに比べても、子宮腺筋症はこのように体外受精の点だけをとっても集中的な管理が必要になります。そのため子宮腺筋症と言われたことがある、もしくはその上で体外受精を考えている場合は必ず治療先の病院に子宮腺筋症の治療実績がしっかりとあるのか、どのようなプランで妊娠、出産まで導いてくれるのかを確認しましょう。
子宮腺筋症がある場合の妊娠経過と分娩
また前述しましたが腺筋症は、妊娠中や分娩に対しても様々なリスクを伴うことが分かってきています。
日本産科婦人科学会の生殖・内分泌委員会報告によると、腺筋症の方で妊娠中に異常がみられた頻度は72.1%と高く、その内訳は下記のようなものでした。
★妊娠経過中にみられた異常★
早期流産:約15%
後期流産(12週~):約10%
切迫流産:約16%
早産:約24%
切迫早産:約23%
胎児発育不全:約12%
妊娠高血圧症候群:約10%
子宮感染:約7%
頸管無力症:約5%
前期破水:約5%
前置胎盤:約3% など
また、大規模なデータ(Hashimoto A, et al. J Matern Fetal Neonatal Med 2017)として、
後期流産 | 早産率 | |
腺筋症(+) | 12% | 24% |
腺筋症(-) | 1% | 9% |
腺筋症がある方は、ない方に対して本来流産が少ないとされる後期においても、流産率が非常に高く、早産率も高いことが分かります。
また妊娠高血圧症候群や前置胎盤なども多くみられるため、妊娠中の管理もしっかり行い、対応していくことが非常に重要となります。
子宮腺筋症がある場合の重要なポイント
日本は、海外に比べてMRIの普及率が高く、子宮腺筋症の発見率や治療の研究が進んでいます。当クリニックでも東京大学の子宮腺筋症外来と提携してたくさんの子宮腺筋症の方々の体外受精、そして分娩に携わってきました。
そこで感じるのは何よりも子宮腺筋症は一筋縄ではいかず、不妊治療だけではなく、その後の妊娠、分娩に関しても慎重にみていく必要があり、そのどの局面でも専門的な管理が不可欠な疾患なのです。
また私たちフェニックス アート クリニックの体外受精の最終目標は、
「ただ妊娠のお手伝いをすることではなく、安全に赤ちゃんを分娩するまでしっかりと」
であると私たちは考えます。
先ほどもお話しした通り、子宮腺筋症は有意に流早産のリスクも上昇させる疾患です。体外受精で妊娠したとしても本当にケアしなくてはならない10週前後の早期の産科でのケアが非常に大事であり、自施設に産科を持たない不妊治療クリニックの場合、妊娠してから次の妊婦健診までに3-4週間前後のブランクが生まれることがあり、その期間が問題となることもあります。その点からも子宮腺筋症に対応できる妊婦健診先、分娩施設(セミオープン先)、お産後の外来まで考えたうえで体外受精をする病院を選択することは非常に大切になってきます。当クリニックは自院本館の産科とのスムーズな連携により妊娠早期からのケアや妊娠中後期でも東京大学などのセミオープン管理を行っているため幅広い対応が可能です。
また現時点では妊娠希望が無い方も、子宮腺筋症は未治療では時間がたつにつれ悪化してしまう場合もあります。そのため将来的に挙児の希望があるのであれば薬剤療法などを用いて進行を可能な限り抑えることも当院本館で行うことが可能ですので、まずは一度お気軽にご相談ください。
すでに子宮腺筋症と診断されている方、ご自身が子宮腺筋症か知りたい方は、
→フェニックス メディカル クリニック本館
※フェニックス メディカル クリニックは予約不要となっております。
子宮腺筋症と診断を受け、体外受精を考えている方
→フェニックス アート クリニックまでご相談ください。