お役立ちコラム

COLUMN

男性不妊外来を受診したらどんなことをされるの?

第1報  検査・診断編

今回は上記の質問に答えるような形式で説明文を構成いたしました。

私共男性不妊専門医でNPO法人男性不妊ドクターズを立ち上げ、不妊カップルは夫婦同時に外来を受診して頂いた方が妊娠出産に至る過程が短くなる特に奥様の心の負担、身体的な負担が少しでも軽くなり、しいては経済的な負担も少なくなるのではないかと思っております。不妊症の原因は女性側、男性側半々にあると言われています。受診初期に男性因子を明らかにし解決できる病態を改善しておけば上記の奥様の負担が軽減するものと信じています。

まずは妊活を初めて6サイクル経っても妊娠に至らない場合には直ちに御夫婦とも精査することをお勧めします。

男性不妊の外来手順に則って説明致します。

Ⅰ.問診表に回答

[1]現在ご病気をお持ちですか。
糖尿病の治療を受けておられる方は逆行性射精といって射精時精液が陰茎より射出せず膀胱の方に逆流する現象を来すことがあります。精液量が最近少なくなったと思われた方は要注意です。

 

[2]手術の既往はありますか。
①特に重要な疾患は小児期~成人期に、脱腸、正式にはそけいヘルニアの手術を受けた方は術後に無精子症となることがあります。治療によって精子が出現して自然妊娠が可能となる病気です。

②悪性腫瘍になって後腹膜リンパ節廓清術を行った場合には、術後に勃起不全(ED)、逆行性射精を来すことがありますのでぜひお知らせください。

 

[3]喫煙
妊活中は禁煙をお願いしています。数本なら良いですかとの質問があります。きっぱり止めましょう。喫煙は皆さんご存じのように将来のがん発生の引き金にもなり、さらに最近の研究では喫煙は精子濃度、精子運動率の低下を来すことも報告されています。

禁煙

[4]長期にAGAを使われている方は妊活に入ったら中断してください。
精子を作るために必要な男性ホルモンの低下が心配されます。妊娠されたならば再開してよいでしょう。

Ⅱ.理学的所見 : 診察を行います

[1]身長、指極長の測定
高身長の方は男性ホルモンが低下している可能性があります。その際は指極長(立位で両手を広げて左右の指の先端までを測定します)が身長より長い場合には男性ホルモンの低下を来す低ゴナドトロピン性性腺機能低下症と診断出来ます。精液検査では無精子です。しかしホルモン補充療法によって自然妊娠が期待できる疾患です。

 

[2]体重(メタボリック症候群)
最近の報告では体重増加も精液所見に影響を及ぼすことから要注意項目です。

メタボリック症候群

[3]視診
顎ひげ、腋毛、恥毛の生え方が不十分ですと男性ホルモン低下を疑います。同時に女性化乳房の有無を観察し体重の増加がないのに乳房が膨らんでいる場合には下記のようなホルモン検査を行います。また男性ホルモンが低下している方は陰茎が小さくなっています。しかし多くの方は性行為が可能です。安心してください。

[4]触診
精巣サイズを測定:精巣の大きさは精子濃度と比例しますので重要な検査です。精巣上体・精管が触知できるか。不明な方は先天性精管欠損症と診断され、無精子症になっています。しかし多くの方は精巣サイズが正常大で治療の所で説明しますが精巣内で精子が作られており顕微授精でお子様が出来ます。安心してください。

精索静脈瘤について:立って頂くだけで陰嚢の左側が膨らんで来る方あるいは下腹部をいきんで頂くと膨らみが増強する方は精索静脈瘤と診断出来ます。多くの方は症状がありません。初診患者さんの40%くらいに認めます。本疾患は外科的手術により御子様が出来るチャンスがある疾患です。外陰部の診察は恥ずかしいし、あまり気持ちの良くない診察ですが妊活のためには重要な診察と御理解、ご協力ください。

[5]超音波検査
侵襲がほとんどなく、陰嚢内容は皮膚の直下にあるため検査がしやすい。精巣がんの有無、精巣上体の異常の有無、精巣サイズも正確に測定できる。特に有用なのは精索静脈瘤の最終診断に必須の検査である。すなわち下腹部をいきむことで内精索静脈から蔓状静脈叢への逆流が観察されることが診断基準となります。精液検査が正常の方にも20%程度に見つかります。自然妊娠を希望される方は超音波検査や手術を行うことができる施設をご紹介いたします。

Ⅲ.精液検査:妊娠可能かどうかの評価は精液検査です

[1]この検査を行う場合の注意は数日の禁欲期間をおいて院内で、もしくは自宅にて採取して下さい。採取時に 容器からこぼれてしまった場合にはその旨の報告を願います。精液量が少ない疾患があるためです。なお精液検査は採取時のコンディションにも影響しますが、検査日によってデータが変動いたしますので最低2回を検査させてください。正常範囲だと思っても2回目には低下している場合があるからです。

採精室

[2]検査はコンピュータにて行いますが胚培養士の専門職の技術が必要です。

 

[3]検査項目

①精液量:精液減少症の有無を見ます。精液量が少ない疾患の代表は糖尿病あるいは悪性腫瘍の治療のために後腹膜リンパ節廓清術を行った方に性機能障害や逆行性射精(精液の一部が膀胱内に射出する)の有無など精査が必要です。

②精子濃度:無精子症の方が10数%認められます。何らか の原因で 精路が閉塞する閉塞性無精子症、先天異常、原因不明の非閉塞性無精子症に分類される。無精子症でも我々は挙児希望に応えられる技術を持っており諦めないでほしいと考えております。

乏精子症・精子無力症(運動率の低下症)・奇形精子症等の原因を精査して治療法をアドバイス致します。上記の状態を造精機能障害と言いますが多くが原因不明なのです。

原因精査を行い解決出来ない場合には最終的には体外受精、顕微授精による治療を当クリニックでは藤原院長をはじめとした専門医とご相談いただいております。

③高度精子精液検査機能検査:精子の質の検査が7月から当クリニックでも行えるようになりました。 精子DNA断片化指数検査(DFI検査)です。どの程度の割合で精子のDNAが損傷しているか。この検査が高くなると精液検査が正常であっても受精率や妊娠率が低下し、流産率が高くなることが報告されています。また精液中酸化還元電位測定(ORP検査)は精液の酸化ストレスの指標になると言われ、この数値が高くなると受精率、妊娠率が低下し、流産率が高くなることが知られています。この二つの検査を同時に行なうことで精子自体、精液中の隠れたリスクを明らかに出来る可能性があります。なるべく初診時に行っておくことが良いと考えています。治療方法については第2報で説明いたします。

Ⅳ.各染色体検査

[1]染色体検査
男性の染色体は46XYです。この検査を行う対象者は無精子症もしくは高度乏精子症患者様で採血して検査します。頻度が高い疾患はクラインフェルター症候群(47XXY)です。

[2]Y染色体微小欠失検査
この検査は染色体検査と同時に行います。男性を決めている遺伝子はY染色体で、このYに無精子症関連遺伝子(AZF)があり、欠失の有無を検査致します。治療方針を立てる上で重要な検査です。

Ⅴ.内分泌検査

下記のホルモンの測定は造精機能障害、性機能障害の診断に有用で初診時に必須の検査です。ホルモンによっては日内変動を来すものもあり、原則として午前中に測定した方が良いです。

[1]脳下垂体から分泌されるホルモン
①FSH:精巣内にあるセルトリ細胞に働いて、精子の形成を促進します。

②LH:精巣内のライディッヒ細胞に働いて テストステロン(男性ホルモン)の合成を促します。

③PRL(プロラクチン):男性にもかかわっているホルモンで高値になると精液検査の悪化を招いたり性機能障害を来したりします。うつ病治療薬の副作用、ストレス、プロラクチン産生腫瘍で高値になります。

[2]精巣から分泌されるホルモン
①テストステロン:男性ホルモンの代表的なもので前述したLHの刺激を受けて精巣内で産生されます。男性型の体型を作り、精巣、前立腺の発達、筋肉、骨、体毛の発達、思春期二次性徴の発来をもたらします。低下すると精巣サイズは小さく、無精子症を来します。

②エストラジオール(E2):女性ホルモンですが男性の体でも作られており骨の維持、骨粗しょう症の治療にも使われます。また過剰に分泌すると精子形成を阻害します。

上記の内分泌検査に前述した精液検査所見./高度精液機能検査、診察所見、超音波検査、染色体検査/AZF検査等々を組み合わせることによって男性側の不妊原因をより明らかにすることで可能となります。ぜひ、一度男性不妊外来の受診をお勧めいたします。

フェニックス アート クリニック

男性不妊 担当医 岩本 晃明

◎岩本医師のプロフィールはこちらから

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