男性因子以外の場合のICSIについて
フェニックス アート クリニック 生殖医療医長金田です。
前回の記事で顕微授精(ICSI)と染色体異常の関係性について論文掲載いたしました。
体外受精の中でも重度の男性因子に対する治療としてICSIが台頭してきたのが経緯ですが、それ以外にもICSIを行うケースは存在します。
今回は男性因子以外の場合のICSIの推奨に関するガイドラインがアメリカ生殖医学会(ASRM)から発表されているので紹介したいと思います。
Intracytoplasmic sperm injection (ICSI) for non-male factor indications: a committee opinion
Practice Committees of ASRM
Fertil Steril. 2020 Aug;114(2):239-245.
doi: 10.1016/j.fertnstert.2020.05.032.
〈 非男性因子の場合のICSIについて 〉
①原因不明不妊症に対するICSI
11本のランダム化比較試験に関するメタアナリシスにおいて、ICSIの受精率がconventional IVFよりも30%程度高かった。(RR 1.27; 95%CI 1.02- 1.58)
→ 男性因子を伴わない原因不明不妊症に対する顕微授精は、いくつかの研究では受精率を上昇させた。しかし、顕微授精が生児出産率を改善することは示されていない。
②質の悪い卵子に対するICSI
→ 2019年6月時点では、この場合にICSIで生児出産が改善するかを取り扱った研究はない。
③採卵できた卵子が少ない場合のICSI
→ 卵子回収数が少ない場合の顕微授精は生児出産の転帰を改善しない。
④母体年齢が高い場合のICSI
→ 母体年齢が高い場合のICSIは生児出産成績を改善しない。
⑤conventional IVFで受精に失敗したことがある場合のICSI
→ conventional IVFで受精率が予想より低かったり、受精に失敗したりした場合に受精率を高めることができる。
⑥ルーチンで行うICSI
→ 男性因子不妊症や受精失敗の既往がない場合、全ての卵子に対して顕微授精をルーチンに行うことは支持されない。
⑦PGTのためのICSI
PGTが必要な症例では顕微授精が推奨されていた。その根拠は受精を確実にし、PCRを用いた場合に透明帯に付着した精子による汚染の可能性を排除するためであった。しかし次世代シークエンサーにより、この心配はなくなり、受精方法による異数性率やモザイク率に統計学的な差はなくなった。
→ 男性因子不妊でない場合のPGTのためのICSIは、精子の混入が検査結果の精度に影響を及ぼす可能性がある場合に限定すべきである。
⑧IVM後の顕微授精
→ IVM後の卵子の受精率はICSIにより向上するようであるが、着床率や臨床妊娠率はconventional IVFで受精したIVM卵子の方が高いようである。生児出生率に関するデータがないため、これらのデータの評価には注意が必要である。
⑨凍結保存卵子に対するICSI
一般的に卵子凍結保存は凍結前に卵丘細胞を除去する。これらは透明帯に変化をもたらし、conventional IVFでの受精率を低下させる可能性がある。
→ 凍結保存卵子に対してICSIは望ましい方法であるが、データは限られている。
【当院での方針】
■上記の項目の中で当院での方針を説明いたします。
当院で基本的にICSIを施行しているのは⑤conventional IVFで受精率が低い ⑦PGT ⑧IVM後 ⑨凍結保存卵子を用いる場合になります。
次に全例ではないですが、ICSIを考慮するのは①原因不明不妊症の適応の中でも初回採卵の場合は採卵できた卵子をふりかけ法とICSIに分けて行うsplitを行うことが多いです。初回の場合、ふりかけ法での受精率が不明のため、念のためにICSIも数個行うという意味合いが大きいです。1回目の採卵を以て、ふりかけ法で受精率が良い場合は次回の採卵から、ふりかけ法のみで行うこともあります。
また③採卵数が少ない場合も、受精による取りこぼしを防ぐためにICSIを勧める場合がありますが、患者さんと相談して決めていきます。
その他の②卵子の質が悪い ④母体年齢が高い ⑥ICSIのルーチン使用のみの適応でICSIを行うことは基本的にしていません。
受精方法について、ご自身にどういった選択肢があるのか、是非医師と相談してみてください。
(論文における結論なので、他の論文では異なる知見が示されることがあることや、個々の患者さんによって状況は異なることはご了承ください。)