コラム

漢方薬について 2023.11.13

風邪を引いた時、便秘になった時など、今まで漢方を服用する機会があった方は多いと思います。不妊治療というやや特殊な現場においても、様々な漢方が用いられています。

漢方による治療は、機序についてもエビデンスが確立されつつあり、漢方薬投与によって黄体形成ホルモンや卵胞刺激ホルモン、プロゲステロンなど、卵胞発育や妊娠維持に必要なホルモンの分泌促進に役立つと言われています。¹)
また、女性のホルモンバランスを整えていく際にも漢方が度々使用されます。多くの社会的ストレスと隣り合わせの現代社会において女性の繊細なホルモンバランスは崩れやすく、結果的にそれは月経不順や無月経に繋がります。適正な漢方の服用は、現代医療においても、それらの症状緩和に役立っています。

当コラムでは不妊治療の現場でよく使用される代表的な漢方についてお話しします。ご自身の治療の参考にしていただければ幸いです。

①東洋医学の考え方

東洋医学は心身一体と捉えて患者様のニーズにアプローチしていきます。
体にとって3つの大切な物質は「気」「血」「水」とされています。このバランス異常が生殖機能の低下につながると考えられているのです。

 

例えば循環障害や栄養不足になると、「血」が滞ります。「血虚」「瘀血」と言われる状態です。男性であればそれは性欲低下、勃起不全に繋がり女性であれば月経困難症、月経不順など月経にまつわる異常に繋がります。
必要な要素を補い、心身の健康を目指していくのが東洋医学の考え方です。

また、漢方においては、「証」を診断します。体質や体型から、心身の状態を把握しすることで、よりニーズに合った漢方の処方を模索していくのです。
証には「実証」と「虚証」があります。証を診断し、その方の証に合った漢方で気・血・水のバランスを整えていきます。

 

(株式会社ツムラ作成「女性の漢方ヘルスリテラシーはBOOK」を参照に作成)

②漢方あれこれ

具体的に妊活の現場で使われる漢方をいくつかご紹介します。

a. 温経湯

多嚢胞性卵巣症候群や、無月経の症状がある方に有効と言われている漢方薬です。「証」のうち、虚証の時に使用します。
先ほどお話した「血」が不足した冷え性なタイプ、「血虚」を改善する働きがあります。血の巡りを改善し、多嚢胞卵巣症候群に特徴的なホルモンのアンバランスを矯正し整えることが期待されます。月経不順や月経困難症にも用いられる漢方薬です。
全身血流の改善が期待されます。

 

注意点として、温経湯に含まれる「甘草」は一日の許容量が決められています。甘草が含まれる漢方薬との併用の際は、医師の指示を仰いでください。

 

b. 八味地黄丸

8つの生薬から成るお薬です。東洋医学で言う「腎虚」(五臓のうちの「腎」の老化を指します)の改善を図る役割があります。
加齢に伴う生殖機能低下にアプローチできるため、高齢不妊の患者様に効果が期待されています。
実際に、八味地黄丸を使用して回収卵胞数が改善されたと言う研究データ³)もあります。
頻尿や冷えを改善する役割もあるため、血流改善による冷え性治療にも効果的と言われています。
男性にも使用される漢方で、「腎虚」状態の男性に生じる性欲低下、勃起不全、ストレス過多などに「補腎」(腎の役割を補填)する役割があります。

 

c. 補中益気湯

先述した「気」が不足した状態である「気虚」の方に勧める漢方です。
疲れやすい、全身倦怠感などが主な症状です。
ストレス過多な男性のなかには、その精神状態が性欲低下や勃起不全、精子無力症などに関わっている方も多く、心身共に健康な状態を目指すことが非常に大切です。西洋医学でも精神障害やうつ病が性欲低下やEDに影響する⁴)と言われています。
補中益気湯はエネルギーを補充(益気)し、男性不妊の改善に役立つ漢方薬です。
実際に、乏精子症や精子無力症の男性に補中益気湯を投与し、精子濃度・精子運動率の改善が見られたと言う報告⁵)もあります。

d.当帰芍薬散

当帰芍薬散は「血」が足りない状態の「血虚」や停滞した状態の「瘀血」による冷え性に勧められ、血行改善を促すことで不妊体質の解消に役立つ働きがあると言われています。温経湯のように、月経不順の方に勧められます。貧血やむくみにも効果的です。
動物による臨床実験で当帰芍薬散の投与により卵巣の血流が改善しエストラジオールが有意に上昇したという指摘もある¹)ほか、黄体機能不全の患者様にも適応があるとも言われています。
妊娠中〜産前産後の諸症状(妊娠中毒症、流早産、妊娠貧血など)にも効果が期待できるため、妊娠判定で陽性を確認してからも飲み続けることができる漢方薬です。

e.桂枝茯苓丸

先述した当帰芍薬散のように全身血流を改善していく漢方で、「実証」の方に対して処方されます。卵巣を刺激するホルモンを出す臓器や、そのホルモンを受ける臓器への血流が良くなることで不妊症の体質改善を目指します。
そのため、卵巣の機能が低い卵巣機能不全症などにアプローチすることができるのです。
体質改善を目指す漢方であるため、やはり他の漢方と同様、継続が大切です。

 

参考文献
1)久慈直昭、京野廣一:今すぐ知りたい不妊治療Q&A p285-286,2020
2)ツムラ: www.tsumura.co.jp/kampo/list/detail/007.html
3)志馬千佳他、 産婦人科漢方研究のあゆみ 2028:25:99-105
4)不妊カウンセラー・体外受精コーディネーター養成講座第50回講演集
5)李 洋他 男性不妊における補中益気湯の臨床効果について.,産婦の進歩 第48巻4号 1996
6)クラシエ:www.kracie.co.jp/ph/coccoapo/magazine/18.html

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