コラム

コロナ感染は男性の造精機能に障害を及ぼす? 2023.06.27

新型コロナウイルス感染症(以下COVID -19)が5類感染症に引き下げられたことを受けて、重症急性呼吸器症候群コロナウイルス2(以下SARS-CoV-2)が男性生殖機能に影響を及ぼしたかどうかについての論文を紹介いたします。

 

皆様がご存じのように2019年12月、中国武漢市でCOVID-19が発生し、急速に中国各地や海外に拡大しました。主に呼吸器飛沫や接触によるヒトからヒトへの感染という特徴を持つことが確認されています。また男性のリスクが女性よりも高いことが報告されており生殖医療医としては妊孕能の低下、不妊をもたらすのではないか危惧しております。

COVID-19に感染後の妊孕能に関する調査を行った論文

中国のLiら(2020)

比較的早く調査を行い研究によると初期のCOVID-19感染者の15.8%に精液中にSARS-CoV-2が確認されていました。

 

中国からのRuanら(2021)

74名の感染した後の回復期の調査から、患者の尿、前立腺圧排液、精液検査を行い、SARS-CoV-2は検出されなかったこと、内分泌検査(FSH、LH,テストステロン)も変化なかったこと、しかし精子濃度、総精子数、運動率は健常者と比較して有意に低下していたが、これらの所見は感染2か月後から3か月後には改善してきたことを報告しています。

 

イタリアのGacciら(2021)

COVID-19感染後に回復した男性の唾液、射精前後の尿、精液等に再度SARS-CoV-2感染の陽性反応が出た患者を経験しています。さらにコロナ感染以前にはお子様を有した男性の4分の1が感染の重症度が高い症例で高度乏精子症、無精子症を示したと報告され、このことはコロナ感染の直接の影響だけでなく発熱の影響、治療のために使用したお薬や男性生殖器の炎症の兆候を示したのではと推察しています。従って生殖年齢にあるCOVID-19患者は精液検査等の生殖機能について注意深い、長期のフォローアップを受けるべきと思われます。

 

報告論文の一部を紹介いたしましたが、COVID-19は生命を脅かす疾患でありますので、調査が行得にくい状況でまだまだ報告例の件数、症例数が少なく、精液中にSARS-CoV-2が存在する可能性があるものの生殖器に対する感染メカニズムもまだ明らかになっておりません。感染回復例では前述したように一時的な精液所見不良をきたすものの数か月後には回復してくるとの論文もあり長期の経過観察は必須であります。

 

新型コロナワクチン注射後の影響

一方、国内でコロナ感染者の精液所見の報告は見当たりません。しかしながらワクチン接種に対する妊孕能の低下や不妊症への不安の声もあることから、石川ら(2021)はコロナ感染の既往がないボランティアに新型コロナワクチン注射後の影響を調査し精液量、精子濃度、運動率等の精液検査をおこなったが異常を認めなかったことからワクチン使用は問題にならないと述べています。しかしながら岩端ら(2022)は注射後発熱を伴った場合に精液検査は一時的に低下することを観察し、不妊治療中はワクチン注射を計画的に行う必要があるとアドバイスしています。

 

まとめ

現在のところSARS-CoV-2が精液中に認める、あるいは精巣に存在するとの確証はありません。

しかしながら、COVID-19が免疫反応または炎症反応を介して精巣炎を誘発し中等度に感染した患者には精子の質を低下される可能性が考えられると思われます。

今後の研究成果を待ちたいと思います。

 

フェニックス アート クリニック医師

男性不妊外来専門医 岩本晃明

 


フェニックス アート クリニック 男性不妊外来
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